津地方裁判所松阪支部 昭和27年(ワ)21号 判決
原告 茅広江村農業協同組合
被告 度会山田畜産指導販売農業協同組合連合会 外一名
一、主 文
被告等は連帯して原告に対し金二十万円及びこれに対する昭和二十六年三月三十日以降完済に至るまで百円につき一日金三銭五厘の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告等の連帯負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人等は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、原告は被告度会山田畜産指導販売農業協同組合連合会に対し昭和二十五年十一月十六日金二十万円を弁済期日昭和二十五年十二月二十五日利息百円につき日歩金三銭五厘の約定にて貸付け、被告山添久太は右債務に対し連帯保証をした。然るに被告等は支払期日に至るもその支払をしないから昭和二十六年三月三十日以降完済に至るまで、百円につき日歩金三銭五厘の割合による損害金の支払いを併せ求むる次第である。
尚本件は当事者間の合意によつて御庁を管轄裁判所と定めているので茲に本訴提起に及んだ次第であるとの旨を述べ、被告等の抗弁を否認した。<立証省略>
被告両名の訴訟代理人は、本案前の抗弁として、本件は管轄違である。被告等は曾て原告と本件訴訟の管轄につき何等の合意をした事はない。本件は津地方裁判所宇治山田支部に提訴すべきであり、御庁に出訴したのは違法であるから却下せられたいと述べ、本案に対し原告の請求はこれを棄却するとの判決を求め、その答弁として、被告等は原告から金二十万円を借用したことがない。
(イ) 昭和二十五年十一月中原告組合の理事竹上泉が多気郡五ケ谷村の高橋亘なる者に金二十万円を貸渡すに付き、高橋亘名義の借用金証書では経理監査の面に於て都合悪しとて被告連合会に来訪悃請し連合会振出し額面金二十万円也の約束手形一通を連合会職員たりし前田協治に作成せしめて之を所持するものであり、当該貸出金を高橋亘が其の事業に使用せる事は原告の熟知する処であるのみならず高橋から直接に利息を徴収した事実もあり。
(ロ) 右の如き内容事実であつたから被告連合会では、後日責任問題の惹起を防遏する為め、昭和二十五年十二月十二日金十五万一千円、同月二十六日金四万九千円(合計二十万円)を原告代理人たる高橋亘に支払済の領収書(二通)を徴して之を保管し、形式上存する債務証書は形式上の弁済受領書により結局原被告間に債権債務の関係存せざる事を明かにし処理したものである(乙第一、二号証)。
(ハ) 原告が何故右の如き迂遠な手段を執つたかは原告代表者と高橋亘との間に介在する事情ありたるものの如くなるが、貸付先である高橋が弁済をしないからとて形式文書を振廻し被告から之を取り上げようとする事は背信敗徳である計りでなく、内実関係者としては刑責をも負わなければならない筋合に認められるものである。
尚原告主張の債権は農業協同組合法第九十九条に違反するものであつて、本件は民事訴訟事件として国法の保護を受けられない事件である。以上の事実により本件は速かに却下又は棄却相成りたいとの旨を述べた。<立証省略>
三、理 由
仍つて先ず管轄違の抗弁について按ずるに、被告等は曾て原告と訴訟の管轄について合意したことがないと主張するが、成立に争いのない甲第一号証(但しペン字訂正部分を除き)、同第二号証と証人若山一雄の供述、原告本人(理事竹上泉)訊問の結果及びこれらの供述により真正に成立したことを認め得る甲第一号証ペン字訂正部分並に甲第三号証及び証人前田協治、高橋亘(各一部)、被告本人(山添久太)訊問の結果(一部)を綜合考察すれば、昭和二十五年十二月十六日被告等は訴外前田協治に対し本件消費貸借につき原告の求むるままに書類を作成すべき旨の包括委任をなしたること、而して原告組合はその貸付に関し借用証書の作成を求め曾て原告組合が産業組合と称した頃、その貸付に際り使用していた産業資金借用証書と題する貸付条項等を印刷した用紙を訴外前田協治に交附し、同用紙記載の各条項諒知の上所要部分を記入し、以て借用証書を作成の上これを原告組合に差入るべきことを求めたること、而して同訴外人は右交附された叙上産業資金借用証書に各所要記入の上甲第一号証を作成しこれを原告組合に差入れたものであること、尚右借用証書差入と同時に本件債務の担保として甲第二号証約束手形を差入れたる事実、右約束手形は被告連合会々長岡本五一郎名義の振出であつて額面金二十万円、支払期日昭和二十五年十二月二十五日、支払地多気郡丹生村、支払場所百五銀行丹生支店、振出地宇治山田市、受取人茅広江村農業協同組合とするものであること、而して右支払地、支払場所は何れも原告組合の住所地を管轄する当裁判所の管轄地域内であること、当裁判所顕著の事実であること等に鑑みるときは原告主張のように裁判管轄につき甲第一号証第五項の松阪区裁判所と印刷されてあるを事前に訂正し、右訂正された借用証書用紙を訴外前田協治に交付し、同訴外人は前説示のように各所要記入の上これを原告組合に差入れたものであることを認むるに十分である。果して然らば裁判管轄の合意についてもまた当事者間に成立していたものと認むるを相当とするのみならず、本件は消費貸借契約上の訴であつて財産権上の訴であること明白なるにより、その義務履行地たる原告組合の住所地を管轄する当裁判所にこれが訴を提起し得べきこと言を俟たないところである。よつて何れの点よりするも被告等の本件管轄違の抗弁は理由がない。
次に本案につき審按するに、被告等は原告より金二十万円を借用したことがない。然し昭和二十五年十一月中原告組合理事竹上泉が、訴外多気郡五ケ谷村の高橋亘なる者に金二十万円を貸出すにつき高橋名義の借用金証書では経理監査の面に於て都合悪しとして、被告連合会に来訪悃請し連合会振出し額面金二十万円也の約束手形一通を連合会職員たりし前田協治に作成せしめ之を所持するものであり、また該貸出金は訴外高橋亘がその事業資金に使用するものであることは、原告組合の熟知するところであるのみならず高橋から直接に利息を徴収した事実もあり、右の如き内容事実であるから被告連合会では後日の責任問題の惹起を防遏する為め昭和二十五年十二月十二日金十五万一千円、同月二十六日金四万九千円(合計二十万円)を原告代理人たる高橋亘に支払済の領収証(二通)を徴し之を保管し形式上存する債務証書は形式上の弁済受領書により結局原被告間に債権債務の関係存せざる事を明かにし処理したものである(乙第一、二号証)。高橋が弁済しないからとて形式文書を振廻し被告から之を取り上げようとする事は背信敗徳である旨抗争するが成立に争いのない甲第一、二号証と証人若山一雄の供述、原告本人(理事竹上泉)訊問の結果、及びこれらの供述によつて真正に成立したことを認め得る同第三号証並に証人高橋亘(一部)前田協治(一部)等の各供述、被告本人山添久太訊問の結果(一部)を綜合考察すれば昭和二十五年十二月中旬頃訴外高橋亘がその事業資金として原告組合に金二十万円の借用方申込みたるも原告組合理事若山一雄、同竹上泉等は同訴外人は原告組合の組合員でもなく、且つ資産信用等なきことを知悉するためこれを拒絶したる結果同訴外人は被告連合会に依頼し同連合会より原告組合に対し金二十万円の借用貸出しを申出たる事実、よつて同年十二月十五日原告組合理事若山一雄が被告連合会に出向きその調査をなしたる上翌十二月十六日被告連合会より包括委任を受けたる訴外前田協治との間に原告主張の如く甲第一号証、同第二号証を受け取り以て本件消費貸借契約が成立したことを肯認し得る。而して該貸付金が訴外高橋亘の事業資金に使用せられるものであることを原告組合が熟知したると否とは原被告間の本件消費貸借契約の成立を左右するものではない。
右認定に反する乙第一、二号証、証人高橋亘、前田協治(各一部を除き)及び被告本人山添久太訊問の結果(一部を除き)は当裁判所の措信せざるところである、他に右認定を覆すに足る証左がない。よつて被告等の右主張はこれを採容するに由ない。
尚被告等は本件貸付は農業協同組合法第九十九条に違反し、民事訴訟事件として国法の保護を受け得られないものである旨主張するけれども、同条所定の趣旨はその行政監督上の措置として違反貸付の所為を処罰せんとするにとどまりこれがため同条違反の貸付が実体法上無効となるものでないと解するから、本件消費貸借契約の不履行によつて危害現存する私権の保護を求めんとする原告の本訴請求は民事訴訟事件としてこれが訴求し得べきこと言を俟たないところである。
よつて原告が被告等に対し金二十万円及びこれに対する昭和二十六年三月三十日以降完済に至るまで百円につき日歩金三銭五厘の割合による遅延損害金の支払を求むる本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条に則り被告等の連帯負担とする。
仍つて主文の通り判決する。
(裁判官 米山義員)